仲間


今年もこの季節がやってきた。
有り難いことに、今年も半年くらいかけて全国を周るツアーが決定していた。
その構成を練る時期。
今年は11年目。10周年の節目の年を終えてのスタートの年。
「どーしよっかなー…」
俺はメンバーからコンサート番長と言われるように、構成等の演出アイディアを出すことが多い。
今年のツアーも然り。どうせやるなら11年目のスタートの年に相応しいものにしたい。
とりあえず俺は10周年ツアー5×10のDVDを見ることにした。

ツアーのDVDを見ると、当時の思い出が蘇って来る。
この時…相葉さんホテルの廊下で寝てたんだよなぁ…
俺は思わず笑みを零した。
―――と、ヤベ。もうこんな時間だ。 既に時計は深夜3時を回っており、俺は慌ててベッドに入った。


次の日も俺はツアーDVDを見ていた。
何枚も見ているうちに、ふと思いついた。

―――今までのスタイルからすっげー掛け離れたものにしたらどうなるんだろ。
これまでのコンサートは、ある意味嵐の歴史を大事にしているというか、デビューした頃の初期の曲も今だに普通に歌うし、全体の流れもそんなに逸脱したものはない。
俺は、やっと嵐のスタイルが確立出来たと思って嬉しく思っていたが、ファンの皆はどう思ってるんだろう。
今までと違う嵐の姿も見たいかもしれない。

しかし…それに伴うリスクも大きい。
新しいことをやる時には必ず逆の意見も多く出る。
俺はソファにのけ反って部屋の天井を見上げた。
―――あ、しまった。またこんな時間だ。
ソファから逆さまの時計が午前4時を指しているのを見て俺は立ち上がり、浴室へ向かった。

「おはよー…」
「おはよっ」
今日はレギュラーの収録日。今週では唯一の全員揃っての仕事だ。
俺はまだツアーの構想を練られていないので、何となくそこに触れられたくなくて皆と離れて座った。

「松潤、コーヒー飲む?」
翔くんが紙コップにコーヒーをついで持ってきてくれた。
「あ、ありがと」
俺はちょっと顔を上げて受け取り、お礼を言ってすぐに持ってきた本に目を移す。
翔くんは何か言いたげだったが、一瞬間を置いただけで、メンバーのところに戻っていった。

きっと心配してくれたんだ。俺が楽屋に入ってきた雰囲気とかから察して。
―――翔くんゴメン。でも今は一人で考えたいんだ…
そのために早く案を出さなきゃ… これまでの歴史から離れるのか。これまでの歴史の上に積み上げるのか。
俺は温かいコーヒーを啜りながらチラリとメンバーを見た。

その日から俺は夢を見るようになった。
コンサート会場。大歓声の中、登場するが客席のお客さんはぽつりぽつり。
本当に数えられる程しかいない。
「ちょ…これ……」
戸惑う俺を余所に、メンバーは平気な顔して歌ってる。
そして始まってまだ1時間くらいしか経ってないのに、
「今日はこの辺りで終了にしましょう」
余りにも盛り上がりに欠けるステージにスタッフが決断を下す。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
そう言いたいが、どうしても声が出ない。
くそっ!なんで声出ねーんだ!待てって言ってんだろ!!

「はぁ…はぁっ……」
俺は自分の声に我に返った。いつもの景色が目の前にある。
ここは俺んちで俺はベッドにいた。
「夢か…」
汗だくの身体を起こし、洗面所に向かって自分の顔を見る。
―――ひでー顔…
それもそのはず、ここ一週間…夜遅くまで構想を練っていた上に、夜は連夜でさっきのような夢で起こされる始末。
ろくに睡眠らしい睡眠をとっていなかったんだ。


「松本さん、ちゃんと寝てますか?」
メイクさんが声をかけてきた。ただいま嵐のレギュラー番組のためのメイク中だ。
「だってホラ…クマ出来ちゃってるじゃないですか」
俺の顔にファンデーションをテキパキと塗りながら言う。
「やっぱわかります?ファンデで隠しちゃって下さい」
俺は理由も言わずに、悪戯っぽい笑みを返して誤魔化した。

「あれ、松潤顔色悪くない?」
「潤くんちょっとやつれた?」
久々に会ったメンバーから総突っ込みを受けた。
―――相変わらず過保護だな…
俺は、大丈夫だからと、ろくに目も合わせずに答え、本番までソファに座って本を読むフリをした。
なんていうか…今は誰ともしゃべる気分になれない。
というか、そんな気力がない。
メンバーは気持ちを察してくれてそれ以上突っ込んでは来なかった。

「それじゃ、嵐の皆さん本番お願いします〜」
スタッフが楽屋に呼びに来た。
俺は立ち上がっ…
「あ、あれ…?」
その瞬間、視界が急に歪んでバランスを崩した。
「松潤!」
「潤くん!!」
俺はソファに押し戻されるように倒れ込んでしまった。
慌てて駆け寄って来るメンバー。
「あ、大丈夫。大丈夫だから。ちょっと立ちくらみしただけ」
俺はへへっと笑って手をパタパタ動かす。
「本番いける?」
翔くんが心配そうに覗き込んで聞いてきた。
「もちろん」
俺は大袈裟に頷いて見せる。
「そ、じゃ行くか。その変わり、後でたっぷりと言い訳聞かせてもらうからな」
俺の肩をポンと叩き、正面を向いたまま翔くんが言った。
「……はい…」
選択権があるわけもなく。俺は低い声で返事をした。


「……で?」
ここは楽屋。
さっきまで収録を行っていて今終わったとこだ。
俺を囲むようにメンバーが座っている。口火を切ったのは、翔くんだった。
「俺らにも言えない、毎晩睡眠不足にまでなってやってることって何?」
…さすが。お見通しってわけなんだな。睡眠不足ってことも、今持ってるテレビや雑誌の仕事以外で、俺が何かやってるってことも。
「言っちゃった方が楽になることもあるしね」
俺が黙っていると、相葉くんが笑顔を見せながら言ってきた。
「まぁ、俺一応リーダーだし、松潤が立ちくらみを起こした原因くらいは知る権利があると思うよ」
リーダーもちらっと俺を見ながら言った。

俺は観念した。
「実は…今年のツアーのことを考えてて…。11年目だし、新しいスタートの年だし、何か新しいことをやりたいなと思ったんだけど、逸脱したものをやっちゃうとファンが離れていっちゃうかなと……でも守りに入って同じことをやるのも何か自分的に嫌だし…」
俺は関を切ったように話しはじめた。
「そのうち、自分が何をやりたいのか、ファンは何を見たいのかもわからなくなって…毎晩変な夢にうなされて…」
「変な夢って?」
翔くんが優しく聞いてきた。
「コンサート会場にお客さんが全然いなくて。スタッフはコンサート打ち切りにするって言うし。待てって言ってるのに全然声が出なくてさ…。最近そんな状態が続いて、眠れなくてどんどん追い詰められる自分がいたんだ…」
言い終わると俺は息を吐いた。皆真剣な顔で俺の話を聞いていた。

「一人で抱え込んじゃダメじゃん」
ポツリとニノが呟く。
「潤くん一人でやってるんじゃないんだし。俺ら仲間でしょ」
「そうだよ。もっと早く言ってくれたらいいのに」
相葉くんもニノに賛成する。
「まぁ、あれだね。わかってるけど、言えなかったんだよな」
翔くんが頷いた。完璧見透かされてる。
「でもそこまで考えてくれて、ありがとね」
リーダーがふにゃっと笑った。
「俺、最近よく思うんだけど、嵐って変わってるようで、全然変わってないんだよね」
ぽつぽつとリーダーが話しはじめた。
「だから、ファンの皆にはそのままの嵐を見てほしいんだ。変に演じたりしないでさ。だってそれが嵐だから」
「変化なき変化だね」
「おー、ニノ。上手くまとめたじゃん」
相葉くんとニノがハイタッチしている。
そんなやり取りを見ていて、俺は自然と笑顔になっているのを感じた。

―――そうか、これか。
「ファンの皆が見て、自然と笑顔になっちゃう。それが俺らだよな」
俺は思わず声に出して言っていた。
「そうだよ。それが俺らじゃん」
目の前の翔くんが笑ってる。
俺はすっと身体の力が抜けた感じがした。どんどん沸いてくる演出案。
―――あれもやりたい。こんなのもやりたい。
「あ、元気になってきた?」
俺の顔色を見て相葉くんが安心したように言った。
俺は照れたように笑い、
「嵐ってさ、いいよね…」
と呟いた。
その言葉を聞いて、メンバーも顔を見合わせながら、照れ臭く笑った。


あれから数ヵ月後。
「今から、俺ら5人で、7万人幸せにしてやるぜ!!」
湧き上がる歓声。
俺は会場いっぱいのお客さんと、メンバーを見て言った。
変化なき変化。
それが今年のツアーのテーマになった。

年月とともに変わっていくものと、年月が経っても変わらないもの。
「何が変わってて、何が変わらないものなのか。それは俺らがこれだって言うものじゃなく…」
「来てもらったお客さんが感じたものだよね」
そんな話をしながら練った演出と構成。

「最高だぜーーー!!」
ステージから見える沢山の揺れるペンライト。
そして隣には、沢山の年月を共にしたメンバー。
俺らが見ている風景は最高のものだ。
ファンの皆から見た風景も最高のものになることを願いながら、俺は客席に向かって力いっぱい手を振った。


☆☆☆
2010年からスタートした、”Scene”〜君と僕の見ている風景〜をモチーフにしたお話です。
書いていくと松潤がどんどん話を展開させてくれて、すごくスラスラ書けました。
松潤が一人で頑張っちゃいがちなとこと、それを気にかけるメンバー。(管理人の視点的に翔くんが主。笑)
要所要所で大事なことを言ってくれるリーダー。
そんな感じの雰囲気を出したくて書きました♪

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