比べられないもの


最近の皆はすごい。
何がすごいって、仕事が舞い込んでくるのが。
ドラマに映画にCMに雑誌に…。どんどん仕事が決まっていく。
同じグループにいる俺でもそう思うんだから、きっと世間から見てもそうなんだろう。
「あ、おはよー。早いね」
「おはよー」
次々とメンバーが楽屋に入ってきた。
翔くんは早速テーブルの上に置いてある新聞を手に取った。
リーダーは何やら鞄から漫画を出して読んでいる。
松潤は雑誌を開いた。ニノは…いつも通りゲームをしている。
こうやって見ると普通の人たちなんだけどなぁ。

しかし、カメラが回ると途端に表情を変える。何て言うか…切り替えがすごい。
「みんなさぁ、オンとオフの切り替えってどうしてる?」
俺はメンバーに聞いてみた。
「仕事とそれ以外のってこと?」
翔くんが新聞から目を離して言った。
「そうそう。どうやって切り替えてんのかなーと思って」
「どしたの、急に。雑誌か何かのインタビュー?」
いきなり俺が質問したもんだから、松潤が怪訝な顔をしている。
「うん。まぁ、そんなとこ」
俺は曖昧な返事をしながらへへっと笑った。
「ふーん。俺は…そうだな…本番に向けて徐々に切り替えて行くタイプかな。いきなりバチっとはいかないからね」
松潤が言った。
「俺もそうかな。ある程度事前にシュミレーションしたりするしね」
翔くんも考えながら言う。
「ニノは?」
俺は後ろにいたニノの方に向き合って聞いた。
「俺は…どうだろ。別にない…かな」
ゲーム画面から目を離さずにニノは答えた。
「なんだよそれ…全然参考にならないじゃん!」
まぁ、大して期待してなかったけどさ…と付け加えると、俺は最後の一人、リーダーにも聞いてみた。
「俺かぁ…んー…よくわかんないや」
ふふっと爽やかな笑顔とともに即答されてしまった。
「リーダーは天才肌だからね」
松潤がリーダーを見ながら言った。
「で、何?何を参考にしようと思ったわけ?」
先程の独り言を聞いていたらしい。ニノが鋭く突っ込んでくる。
「あ、いや。深い意味はないんだけどさ。皆どうしてんのかなーと思って」
俺は目の前で手をぶんぶん振りながら答えた。
―――相変わらず嘘の付けないヤツ…
どうせニノが心の中でこう言ってんだろと想像しながら、俺は逃げるようにニノから視線を外した。


「はい、本番いきまーす!」
スタッフの声とともに収録が始まった。
「皆さんこんばんは!嵐です」
翔ちゃんの爽やかな声から始まり、次々と場面が展開していく。
「ちょっと松潤やってみ!」
「えー、俺マジで無理だから!」
松潤に無茶振りするメンバー。強気な姿勢を見せるときと、バラエティーでいじられるキャラ。
このギャップがすごい。
「ちょっと!さっきからリーダーが石になってるんですけど!」
ニノが横にいたリーダーを銅像を押すかのごとく、中央に連れていった。
途端に会場中に笑いが巻き起こる。
ニノは翔ちゃんの司会のフォローが抜群に上手い。フォローというか、どんどん話を展開させていく方向に持っていくのが上手い。
突っ込みも的確。コメントも的確。ニノが何かを間違えることって正直俺はあんまり見たことがない。
「じゃ、リーダー。一言お願いします!」
「ちゃんとメシ食えよ!」
再び会場は爆笑。拍手まで起こっていた。
リーダーは何も考えていないようで…実際考えていないのかもしれないけど、瞬間的にピンポイントで照準を持っていくのが上手い。
あと、チャンスをつかむのが上手い。
ここぞっていう時、必ずやってくれる、出来ちゃう人だ。
「では、また来週〜!」
短時間の収録だったため、あっという間に終了した。
「おつかれさまでーす」
次々と楽屋に引き上げるメンバー。
俺も皆についてスタジオを後にする。

「ねーねー」
不意に後ろから袖をくいっと二回引っ張られた。
「さっき、何か考えてたでしょ?」
図星を指され、ドキっとして振り返るとニノだった。
「何だニノかぁ…びっくりさせんなよ」
「何だはないでしょ。収録中ずっと上の空でさ。言っとくけど、相葉ちゃん頭悪いんだから、あんま頭使っても意味ないんだからね」
「どーゆー意味だよ、それ!」
俺の突っ込みをひらりと避けて、ニノはそのまま俺の答えも聞かずに楽屋への廊下を歩いて行った。
―――んだよあれ…
一人取り残された俺は、そう呟きながらも、ニノはニノなりに俺のことを気にかけてくれたんだろーなと感じていた。


今日はオフ。
俺はふらっとコンビニに立ち寄った。
何とは無しに並んでる雑誌をちらりと見ると、テレビ雑誌がいくつか置かれていた。
―――そういえばあの時…
俺は一冊のテレビ誌を手に取った。
パラパラとページをめくり、真ん中辺りで手を止める。
”メンバーのイイトコロ”
これは嵐がメンバーの長所をそれぞれ上げるという企画だった。
一人ずつの撮影だったため、俺もまだメンバーがどう答えたのか知らない。

まずリーダー。
美術的センス
癒し
天才
美声
確かに。癒しに関しては嵐内で断トツ一位だし、あの歌声は俺も惚れ惚れする。

次に翔ちゃん。
キャスター
頭がいい
気を配れる
ギャップ
うんうん。翔ちゃんは翔ちゃんにしか出来ない仕事をしてるって思う。オリンピックに行って取材するなんて、中々出来ないよな。

続いて松潤。
コンサート等の演出を考えてくれる
常に上昇思考
ストイック
問題提示してくれるとこ
松潤はいいものを作るためにはとことん拘る。
俺らなんかが考えつかないようなとこからアイディアを持ってくる。
だから、コンサート中に衣装脱ぎ忘れたりすると怒られるんだけどね…

そしてニノ。
演技力
頭の回転が早い
絶妙な突っ込み
演技力
四人中二人が上げる程、演技力には定評がある。ハリウッドデビューしたときは凄かったなぁ。

最後に俺。
楽しそうなとこ
自由
ミラクル
裏表がない
……まぁ、否定は出来ないけどさ。なんか俺だけ仕事絡みのことが一個もなくないか?
俺はパタンと雑誌を閉じると、コンビニを後にした。
―――俺ってちゃんと仕事出来てんのかな…
そういえば昨日、オンとオフの切り替えの話をしたときも、俺自分がどうしてるのか答えを見つけることが出来なかった。
なんか心にずっしりと重たいものを抱えたみたいに、何もやる気が起きなくて、俺はそのまま家に帰って寝てしまった。


翌日。
俺は、志村動物園の収録に向かった。
「おはよーございます」
「おぅ」
打ち合わせのためにスタジオに入ると、志村さんがいた。
俺は堪らなくなって聞いてみた。
「あの、変なこと聞いていいですか?」
俺がいつになく、真剣な顔をしてるもんで、志村さんは台本から顔を上げてこっちを向いた。
「俺のいいとこって何かありますか?」
一瞬の沈黙。
「どうした、突然。お前のいいとこ…そうだな…いつも明るいとこなんじゃないのか?」
志村さんは笑顔でそう言った。
「……」
志村さんは悪くない。
悪いのは、突然変な質問をした俺だ。
だけど…今は、明るい、楽しそう等の類の言葉は聞きたくなかった。
俺の全てがそうだと言われたみたいで…

「はい、お疲れ様でしたー!」
それでも俺はプロだ。あまり楽しくはなかったが、何とか自分を作って収録を終えた。
次は…嵐のレギュラー番組の収録か…。何となく、今日は足が重たい。
いつもならお昼何食べよっかなーとウキウキで行くはずなんだけど。
メンバーにも何か会いにくい…
「しっかりしろ、雅紀!」
俺は自分の頬をパンパンと手で叩き、楽屋のドアを開けた。
「ちーっす」
「あ、はよー」
楽屋にいたのはリーダーとニノ。
いつも通り、二人くっついてソファに座ってる。リーダーはテレビを見ていて、ニノはゲームをしていた。
「相変わらず仲良いね」
俺は一応突っ込みをして、もう一つのソファに腰掛けた。
「相葉ちゃん昨日休みだったんでしょ?何してたの?」
ニノがゲーム画面に目を向けたまま聞いてきた。
「あ、昨日?あーっと…何か疲れてたみたいでさ。ずっと寝ちゃってた」
突然の質問に俺は動揺し、作り笑いをするのが精一杯で正直な答えを言ってしまった。
ニノが、昨日何してたの?じゃなく、昨日何考えてたの?って聞いてきたように思えて、俺の心臓は鼓動を早めた。
「えー、相葉ちゃんが休みの日に病気以外で寝てるって珍しいね」
リーダーがふんわりとした笑顔を見せつつ言った。
―――あーもー!この人の笑顔は何て邪気がないんだ!
俺は心の中に抱えてる鉛を吐き出したくなる衝動に駆られた。
―――どうしよう。言っちゃった方が楽になるかな…
しばらく考えた後、俺は決心した。

「あ、あのさ…」
「おはようーっ」
「うぃす」
俺が口を開きかけたその時、バタンとドアが開く音がし、翔ちゃんと松潤が入ってきた。
「智くーん!昨日見たよ、あれ」
あっという間に賑やかになる楽屋に、俺はそのまま言葉を飲み込んだ。
今の言いかけたの、ニノ気づいたかな…ちらりと横目でニノを見ると、何気ない顔で携帯をいじっていた。
良かった。皆の声に掻き消されて気づかなかったみたいだ。俺はほっと息をついた。

「あ、俺ちょい時間聞いてくるわ」
「俺飲み物買ってこよ」
しばらくして松潤と翔ちゃんが立ち上がって楽屋を出て行った。そしてニノも立ち上がる。
「あれ、ニノも?どこ行くの?」
「トイレだよ、トイレ」
んなことイチイチ聞くなよという表情を浮かべてニノも出て行った。
……気づけばリーダーと二人きりになっていた。
―――どうしよ…
さっきは勢いで言いかけたが、最早何となく言い出しにくい。
「…そういえば、さっき何か言いかけなかった?」
リーダーがこっちを見た。
その顔。全てを受け入れるような表情。その存在に何度今まで助けられてきたことか。
俺は、つい口を開いていた。
「……引かないで聞いてね?」
リーダーが怪訝そうな顔で俺を見る。
「俺って…さ…ちゃんと仕事出来てるのかな?嵐として、仕事出来てるのかな?」
「………」
ちょっと驚いた表情を見せたが、リーダーは黙っていた。
「だってさ、俺リーダーみたいに歌上手くないし、翔くんみたいに司会出来ないし、松潤みたいにプロデュースとか出来ないし、ニノみたいに演技出来ないし…」
「相葉ちゃん…」
自分でもこんなこと言うつもりなかったんだけど、俺は話し出したら止まらなくなっていた。
「だって今だに仕事のオンオフもあんまわかんないし、ダンスも早く覚えられないし、気の利いたコメントも出来ないし…いつも皆に助けられてばかりで……」
「そんなこと……」

リーダーが何か言いかけるが、俺は尚も続ける。
「不安なんだ…俺、何が出来てるんだろって…俺の強みって、長所って何なんだろうって…そう考えたらどんどん落ち込むばっかで…」
ヤベ…泣きそうだ。
「あー、でもこんなことリーダーに言ったってしょーがないよね。自分で何とかしろって感じだよね。なんかゴメンね!気にしないで。しっかりしろ俺っ」
俺は今にも涙が出そうなのをリーダーに見られたくなくて、無理矢理明るく振る舞って立ち上がり、自分の頬を叩いて誤魔化した。
「相葉ちゃんさ…」
リーダーが座りなと手をくいくいと動かしながら、優しく語りかけてきた。
有無を言わせないその雰囲気に、俺はリーダーに従って再び座った。
「…自分がどれだけ周りに元気と幸せを与えてるか知らないでしょ」
「…へ?」
予想を遥かに裏切る言葉に俺は素っ頓狂な声を発した。
「相葉ちゃんの体からパワーが溢れてて、俺らはいつもそれをもらってるんだよ」
「リーダー…」

「あーもう我慢出来ない!相葉くん何言ってるのさ!」
バターンっと勢い良く楽屋のドアが開き、翔ちゃんがずんずんとこちらに向かってくる。
「そうだよ!相葉さんのハートに、いつも俺ら助けられてんだよ」
松潤もその後ろから強い調子で言ってくる。
「え…ちょ…何で皆…?……もしかして今の話聞いてたの?」
俺は何が何だかさっぱり理解出来ていなかった。
「だーって相葉ちゃん、こうでもしないと話してくれなかったでしょ」
ニノが後ろで手を組みながらすました顔をしている。
「だから皆にメール送って楽屋出て行ってもらったんだよ。ドアの後ろで聞いてたけどね。感謝しろよー」
そう言えば、皆が楽屋から出ていく前ニノ携帯いじってたよーな。
「皆相葉ちゃんから元気もらってるんだよ?」
リーダーがはにかんだ笑顔を見せた。
皆も、うんうんと頷く。
「…皆…」

「さっきさ、オンオフがわからないって言ってたけど、相葉ちゃんてその時の楽しい気持ちのまま仕事するでしょ?」
正面に座ってるリーダーが俺を見上げながら言った。
「……うん…」
「それが相葉ちゃんのスタイルだし、誰にも真似出来ないことだと思うよ。よく言ってるでしょ、全身全霊って。その一生懸命さとか、体全部で楽しんでるのとか、それが相葉雅紀の究極のいいとこなんじゃないの?」
俺はリーダーの言葉を反芻していた。
俺の…スタイル……
そっか…楽しそうって思われるのは悪いことじゃないんだ。

「ひでーな、相葉ちゃん忘れちゃったわけ?俺ちゃんと言ってたんだけどなぁ。数年前の24時間テレビの手紙でさ」
横からニノが俺の肩に手を置きながら言ってきた。
……手紙…
はっとして俺はニノを見た。
人懐こく笑いながらニノはピースサインを見せる。
「まぁ、相葉くんが笑顔じゃないと始まんねーからさ」
「今日も俺らに幸せ分けてくれよ」
翔くんが肩を竦めて見せた。松潤も手をぱたぱたさせながら笑ってる。
俺は皆の存在の暖かさを感じた。
他人事なのに、皆忙しいのに…こんなに親身になってくれる……その存在に、俺は再び涙が出そうなのを堪えていた。
「…ありがと、皆……俺、ホント嵐で良かったぁ!」
手をぎゅっと握り、俺は改めて一人一人を見て言った。
「じゃ、これにて解決ってことで!俺腹減っちゃってさー」
翔ちゃんがテーブルの上に置いてあった、ケータリングのメニューを持ってきた。
「あ、俺も!」
「俺カレーがいい」
「リーダー、またカレー?」
「違うよ。この前はカツカレーだったの!」
「同じじゃねーかよ!」
皆とじゃれあいながら、俺はニノからの手紙を思い出していた。

―――だから、一人でバラエティーをやるって聞いた時は不安でしたが、
今や欠かせない人になったのは、貴方のその一生懸命さだと思います…
仕事に対する一生懸命さに、ついていこうと思えたんです………


☆☆☆
相葉くんらしいお話にしようと頑張りました!
ラストどうしようかなーと思って考えていたら、ふと2008年の24時間テレビの手紙を思い出して、これだ!と思ったわけです。
すらすらとはいかなかったけど、着実に一歩一歩書き進めたお話です。
悩みがあっても、気を使ってつい明るく振るまっちゃう相葉くんと、
いち早くキャッチして、全部見透かしたような行動を取る長い付き合いのニノ。
で、やっぱりラストはリーダーに締めてもらうと(笑)
実は、メンバーのイイトコロの言葉は上からメンバー順になってますv
相葉くん、これからも皆に元気と幸せを振りまいてくださいね☆

⇒戻る