俺たちの仕事2


ブルブルブル…

突然、俺の鞄から携帯のバイブ音が聞こえた。
俺は我に返り、鞄を漁って携帯を取り出した。
パカッと画面を開くと、智くんからのメール。


<本文>
今日ZEROに出るんだってね。
大変な任務だけど、櫻井翔らしさで頑張って!


「智くん…」
まるで、俺の今の心境を見透かしたようなメールに、俺は苦笑するしかなかった。

―――さすがだね…

すると再び携帯が震え、メールを受信した。
「相葉くんからだ…」


<本文>
今日ZEROやるんだね。
緊張すると思うけど、一発ぶちまかしちゃって!


「ぶちまかすって何だよ…」
携帯を見ながら思わず笑みが漏れる。
さらに携帯のバイブは止まらず、一気に二つメールを受信した。


<本文>
こんな状況だからこそ、翔さんの言葉が必要なんだと思う。
それが日本の復興になると思うよ!


「ニノ…」
ニノらしい、でもしっかりした文章に俺は大きく頷いた。
そして続いて次のメールを開く。


<本文>
今回の仕事は本当に大変だと思う。
でも翔くんが四年間真面目にニュースに向き合ってきたのを、俺知ってるから。
翔くんなら出来るって信じてるから。頑張れ!


「松潤…ずりぃよ、この文章…」
俺は鼻の奥がツーンとするのを感じた。
ヤバイ、泣きそうだ。
俺は携帯を閉じて鞄にしまうと、自分の頬を叩いた。

―――大丈夫。俺は一人じゃない。

メンバー全員からの、”らしい”文章に、俺は勇気を貰ったのを感じた。

「失礼しまーす。櫻井さん、お願いします」
ノックの音とともに、スタッフがドアから顔を出した。
「はい、今行きます」
返事をして立ち上がる。
楽屋を出る直前、俺は携帯が入っている鞄を振り返り、言った。
「行ってくる…」


中継開け、スタジオが画面に映る。
「えー、ここからは一旦東京のスタジオからお伝えします。まず…」
隣に座っている鈴江アナの声でスタジオからの放送がスタートした。
俺はしっかりとカメラに視線を送った。
そのまま隣のパネルを使用して被害状況の説明が入る。
「東日本大地震で特に深刻な被害が出ているのは…」

説明が終わり、今度は現地との中継だ。
俺は村尾さんに向かって呼びかけた。
「村尾さん、取材の様子を伝えてください」
初めて知る情報もあり、俺は必死に原稿にメモを取った。
画面の向こうに映っている村尾さんは、酷く疲れた様子だった。

―――きっと昨日から取材であんまり休めてないんだろうな…

そして”支援の在り方”のトピックに移る。
ここが俺にとっての山場だ。
パネルに映し出された映像に辿って説明をする。
「では、今私たちに何が出来るのでしょうか。想いが届いてて、上手く使ってもらえるのが義援金です」
俺ははっきりと言い切った。
こんな状況だから、ボランティアとか、物資が必要だろうと普通は思うだろう。
でも、まだ受け入れ体制が整っていない今、それは間違いなんだ。
俺は自分の立場も忘れる程、真剣にカメラに訴えかけた。

「…あるいはまた、少し我慢することで、被災地の皆さんが救われることがあれば、私達はそうしなければならないと思いますし、私もその輪の中に加わりたいと思います。では、また明日。失礼します」
村尾さんの言葉で放送は終了した。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした!」
無事に終わり、スタッフの皆は安堵の表情を浮かべていた。
俺は、お疲れ様でしたと言った後、ほっとしたのか全身の力が抜けたような気がしていた。

そして、場所を変えての反省会。
スタッフが何枚かの印刷した紙を持ってきた。
「櫻井さん、二時間生放送お疲れ様でした」
そう言って、笑顔でその紙束を渡す。
「何ですか、これ」
俺はきょとんとした顔でそれを受け取った。
「メールですよ!今日のZEROを放送した直後から殺到して。櫻井さんに元気をもらったとか、櫻井さんの原発や支援の在り方の説明がすごくわかりやすかったとか、櫻井さんが出てくれてありがとうとか。とにかく反響がすごい大きかったんですよ!」
「え、ほ…本当ですか?」
俺はまだ信じられなく、口を開けたままでいた。
「良かったですよ!」
その様子を見た一人のスタッフがそう言って拍手をしてくれた。
「お疲れ様でした」
次々とそう言って周りにいた人も拍手をしてくれる。
俺は胸がいっぱいになった。
今日この仕事をやって良かったと実感し、皆に頭を下げ、お礼を言った。


翌日。震災から四日目。
レギュラーのスペシャル番組の収録が予定通り行われることになり、俺はフジテレビの楽屋にいた。

「翔くん、昨日見たよ。すげー良かった」
俺が楽屋に入るなり、いの一番で松潤が言ってきてくれた。
「あ、俺も見たよー。翔ちゃんさすがだわ」
相葉くんも頷いている。
「翔さんだからこその説得力があったよね」
「うん」
ニノと智くんも、じゃれ合いながらもそう言ってくれた。

俺は褒められて照れ臭くなったが、真面目な顔をして言った。
「でもさ…本番始まるまでは、実は怖くて仕方なかったんだよね」
「…翔くん」
「出来るか、じゃなくやるしかないって思って出ることにしたのにね。本番が近づいてくると、急にテレビで見る震災の様子がリアルに感じられて…」
俺の話を皆黙って聞いていた。
「楽屋でスタンバイしてる時、落ち着け、しっかりしろって思うんだけど、頭とは裏腹に心臓はバクバクいっててさ」

俺はそこでニッコリ笑って言った。
「そんな時、メールが来た。誰からだと思う?」
「あ…」
皆、自分だと思い当たったようだった。
「それが、おっかしいの。皆ほぼ同じタイミングで来たんだよ」
俺は皆を見た。
「え、じゃ、じゃあ皆も?」
松潤が皆を振り返った。
「そうなの?貴方も?」
ニノは智くんを指差した。
「うん、送った」
智くんは頷いている。
「俺も送ったー。翔ちゃんが心配だったから」
相葉くんが手を挙げた。
「そうなんだ、皆同じこと考えてたんだね」
松潤の言葉に、皆顔を合わせて笑い合った。
「皆からのメールで、俺安心してスタジオに行けたんだよね。一人じゃないって感じてさ。本当感謝してる。ありがと」
俺ははにかみながらもお礼を言った。


「こんな状況だからこそ、皆さんが元気になれるよう笑顔を届けたいと思います。どうぞよろしくお願いします」
俺の挨拶で収録がスタートした。
「いつも通りやろうよ!」
誰に言うわけでもなく、ニノが言い出した。
俺達はお互いの顔をしっかり見て、
「もちろん」
大きく頷いた。


「やっぱさ…俺らの仕事ってこういうことなんだよね」
収録が終わり、楽屋へ戻っている時に突然松潤が言い出した。
ちょうど今、俺も同じことを感じていたのでびっくりした。
「俺も思った。俺らが何かをすることで…」
「皆を元気に、皆を笑顔に出来たらいいよね」
相葉くんが俺の言葉に続けた。
「それが、俺達の仕事…」
ニノも頷いて言った。

「使命だよね」
智くんがぼそっと呟いた。

俺は智くんの発言に思わず笑ってしまった。
「お、おー。そうだよね、使命だよね」
大きくリアクションする。
「リーダーに使命って言われちゃ、俺ら拒否れねーよな」
「だよね、だよね」
松潤と相葉くんが笑いながら言った。
「使命って重ぇんだよ」
いつも通り、ニノが突っ込んで爆笑。

笑いながら、俺はきっとメンバー全員、同じ気持ちでいると感じていた。
日本中が、皆心から笑える、安心して生活が出来るその日まで、俺達は元気と笑顔を届け続けよう。


それが俺らに課せられた、使命だから―――



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☆☆☆
今回の東北関東大震災に関するお話後編です。
きっと、嵐さんたちは、自分達の仕事をこういう風に理解しているんじゃないかなと。
私自身もそう思いますし。
誰かを笑顔にする仕事って本当に本当に素敵な仕事だと思います。
ただのアイドルじゃない、アイドルの奥に秘められた意味があると思ってます。
今回の震災に関連付けて、ラジオやテレビの収録し直しがあって忙しかったと思いますが、
本当に元気をもらいました。
お疲れ様でした!

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