俺の居場所2


「最悪俺ら四人でやるしかないよ」
松本が何かを決心したかのように残りのメンバーに言った。
「え…ちょ…それって…」
相葉は言葉にならない声を発していた。他のメンバーも言葉が見つからないようだった。
「そだね…ファンの皆が待ってる。裏切るわけにはいかないもんね」
二宮が口火を切って言った。大野も賛成とばかりに大きく頷く。
「今まで俺ら、翔さんにいっぱい助けてもらったもんね。今度はオレらが支える番だよ」
続けて二宮が皆を見ながら言った。
「翔ちゃん…コンサート出なくてもいいから、無事でいて…!」
相葉が震える声で呟く。
「そんなの…皆同じ気持ちだよ」
松本が相葉の肩を摩りながら宥めた。
「翔くんならきっと大丈夫だよ」
大野の言葉にメンバー全員が目を合わせ、大きく頷いた。


「折れているのは手ですよね?踊ることは出来ますか?」
俺は震える手を必死で抑えながら、努めて冷静に先生に聞いた。
もう事実は変えられない。最良の方法がきっとあるはずだ。それを見つけ出せ…
「ただ、足の打撲がありますからね…。歩くのも痛みが伴うと思いますよ」
「ちょっと歩いてみていいですか?」
俺は先生が止めるのも聞かずに、おそるおそる床に足をついた。
―――痛っ…!!
思った以上の激痛に一瞬頭がフラついた。
「大丈夫ですか?まだ少し横になっていた方がいいですよ」
先生が俺をベッドに押し戻す。くそっ…こんなとこでちんたら回復を待ってる暇はねーよ…
「先生!どうしても今日俺はやらなくちゃいけない仕事があるんです。踊れないなら、突っ立ったままでもいい。とにかく、穴を開けることが出来ないんです!!」
俺は夢中で先生に訴えかけていた。
「しかし…」
渋っている先生に尚も訴える。しばしの沈黙の後、俺の気持ちが通じたらしく、溜息をついて
「……医者としては、どうしても止めたいところですが、僕も人間なんでね。君の熱い気持ちに免じて、どうしてもというなら止めはしません」
「先生…!」
「ただし、絶対にムリはしないこと。仕事が終わったら必ずもう一度病院に来ること。いいですか?」
「はい!ありがとうございます!!」

俺は先生に多謝してから、病室を出た。
初めは歩くのも痛みが伴っていたが、段々と慣れてきたのか、顔を歪める程の痛みではなくなっていた。
外で待っているマネージャー、スタッフに事情を説明する。
予想通り、皆心配そうな顔をしていた。
「大丈夫です!こんなの、気合いでなんとかなりますよ!」
俺は力強く頷いて見せた。
―――たたっ…!
つい右手を動かしてしまったため、激痛が走った。それを表情に出さないようにし、何とか皆を説得させることが出来た。
―――おし!これで今日のコンサートに出れる!!皆にも心配掛けずにすむ!
俺は早くメンバーの所に戻りたかった。俺が病院に運ばれていった時の、取り残されたメンバーの不安げな表情がさっきから脳裏に焼きついて離れない。
早く安心させてやりたかった。俺は大丈夫って。


「よし、変更部分はとりあえず今の感じで」
「今日のお客さんを楽しませよう!」
努めて明るく振舞うメンバー。誰も心の奥底にある一言が言い出せない。
無事なのか…ってことが。

―――カチャ
楽屋にいたメンバーが最終打ち合わせをしていると、不意にドアが開いた。
「!?」
「しょ…うちゃん?」
そこにはいるはずのない、だけど一番いてほしい人物が立っていた。
「大丈夫なの!?」
「大丈夫じゃないよね?その包帯…。怪我の具合どうなの?」
駆け寄って矢継ぎ早に質問を投げかけるメンバーに、俺はどの質問から答えたらいいのかわからなかった。
「俺、踊れなくても今日のステージに立ちたいんだ。皆で…五人でステージに立ちたいんだ」
質問に答える代わりに、俺の意思を伝えた。
「翔さん…」
「俺ら、1回もメンバー欠かしたことないじゃん?相葉くんが病気で踊れなかった時も、一緒にステージに立ってた。今回だって不可能じゃないんだ。だったら俺は一緒にコンサートをやりたい!」
本当は今、立ってるだけでもちょっと辛い。だけど、一緒にステージに立てない事のほうが何倍も辛い。

メンバーは俺の言葉の意図を理解してくれたようだった。
「俺も翔ちゃんとコンサートやりたいよ!」
相葉くんがぐっと手を握ってきた。
「いった…!」
不意のことで思わず声を発してしまった。
「あ、ごめん!!痛かったよね」
でもメンバーは俺がやるといったら、もう何を言っても聞かないとわかっているのか、誰も止めなかった。
「その代わり…ムリすんなよ?まぁ、それ自体ムリなんだろーけど」
松潤が笑みを返しながら言った。
横から智くんが肩を叩いてきて、
「せっかくだし、楽しもう」
と言った。俺はその言葉に痛みも忘れて自然と微笑んでいた。


コンサートが始まる。
皆が踊っている中、俺は踊れずにいた。
しかし、そんな皆の背中を見るのも新しい発見がある。皆が頼もしく思えた。
いつもより増えるアイコンタクト。
明らかに俺に合わせてくれているタイミングとフォーメーション。
―――相葉くんなんか、俺の振りまで覚えてくれてる…
皆が踊ってる最中なのに、俺はこみ上げてくるものをこらえるのに必死だった。
そして…何より…この会場に集まってくれているファンの皆。
いつもより歌って、踊ってくれている。
この会場を盛り上げようとしてくれている。
会場が一体となって…ってこういうことを言うんだな、と俺はファンサも忘れて純粋にぐっとくるものを感じていた。


そしてコンサート終了。
「おつかれー!」
「おつかれさーん」
「翔さんお疲れ!」
「足痛いんでしょ?座りなよ」
皆の過保護っぷりに自然と笑みが零れる。
ソファにゆっくり腰かけながら俺は言った。
「皆本当にありがとね。皆にフォローしてもらえなかったら一緒にコンサート出来なかった。あの時は…一緒にコンサートやるんだって気持ちが先走っちゃってたから、やるって言ったけど…実際は助けられてばっかで…」
そこまで言ったとこで、相葉くんがそばに寄ってきて俺の肩を叩いた。
「何言ってんだよ、翔ちゃん!俺らだって怪我してても翔ちゃんとステージに立ちたかったんだよ」
「そうだよ…翔くんが病院に行ってた間、誰もが願ってたよ。出来ることなら一緒にステージに立ちたいって」
松潤が真剣な眼差しで俺を見ながら言った。
こういう時の松潤って本当に説得力があるって思う。
「どんな状態でも、翔さんがいてくれたら俺らは安心するんだよ。ね、リーダー?」
二ノが優しい笑みを見せながら智くんを見た。
「そうだよ!今日大成功だったし。やっぱコンサートはいいよね!」
「リーダー話ずれてるー!!」
二ノの突っ込みで皆大爆笑。
笑いながら俺は、この先どんなことがあってもこのメンバーとならやっていける、今のこの気持ちを絶対に忘れないでおこうと心に決めたのだった。



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☆☆☆
HAPPY BIRTHDAY翔くんvの小説続編です。
もう一年越し?(苦笑)
まぁ、待ってくれている人はいないと思いますが…
今年はもう少しお話をたくさん書きたいと思います。
翔くん、お誕生日おめでとう!(今更)29歳も”らしい”翔くんでいてください。
応援してます!!

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