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お節介な人たち
※注意※
物語の都合上、若干グロテスクな表現が含まれております。
「はい、オッケーです。少し調整入りまーす!」
スタッフの声とともに休憩に入り、俺は夜空に向かって思いっきり伸びをした。
ただ今の時刻、午前0時45分。
―――あと半分ってとこか。
側に置かれた時計に目をやりつつ、俺は簡易の折り畳みイスにかかってたベンチコートを羽織る。
ここは都内某所の駐車場。現在、映画GANTZの撮影真っ只中だ。
この映画は、主人公が夜な夜な黒い謎の球に呼び出されて、悪い星人と戦うものだ。
戦うのは決まって夜。だから撮影も基本的に夜が多い。
夜明けまでやってるんだから、今日もまだまだ先は長そうだ。
「ニノ、コーヒー飲む?」
スタッフさんが暖かいコーヒーを持って来てくれた。
俺は有り難く頂戴することにし、一口飲んで気合いを入れ直した。
―――おし、残りもやってやるぜ!
夜明けとともに撮影は終了し、俺は車に乗り込んだ。
さすがに夜通しの撮影に体がだるい。
「今日このあと何だっけー…?」
俺は後部座席にもたれ掛かり、運転しているマネージャーに話しかけた。
「この間は10時入りでVSの収録が二本です」
―――今日VSかぁ。ちょっとは寝とかないとキツイな…
「楽屋先入って寝ときますか?」
俺の心の声を察したのか、マネージャーが言ってきた。
「シャワー使えるよね?」
「はい、大丈夫です」
「じゃ、そうしよっと。ありがと」
俺はお礼を言って目を閉じた。
「おはよー」
ここはフジテレビ。いつもの楽屋のドアを開け、俺は中に入った。
「…ん?」
誰もいないと思ったが、ソファの方から寝息が聞こえた。
誰か来てるのか?と思いながら足を進めると、ニノが毛布に包まって寝ていた。
「ニノか…あー、これは今日も朝まで撮影してたな…」
俺は起こさないように、静かにソファに腰掛け、置いてあった新聞を音を立てないように開いた。
スースーと余りにも気持ち良さそうな寝息に思わず苦笑した。
―――子供かよ…
「……ん……あー、よく寝た」
俺はソファから体を起こして肩を回した。
「あ、起きた?」
目の前に翔さんが座っていた。
「びっくりしたー…いつからいたの?」
「つい、さっきだよ」
翔さんが時計を見ながら微笑んだ。
「なんか、翔さんの笑顔って爽やかだよね」
寝起きに見た、翔さんの笑顔にほっとした自分がいて、ついこんなことを言っていた。
「ハハハ…なんだそれ。それより、今日も朝まで?」
「うん、朝までコースだよー」
俺は首を動かしたり腰を回したりしていた。
「そーなんだ…大変だよなぁ。今日これ夕方まであるから無理すんなよ」
「ん、ありがと。今寝てたから大丈夫」
俺は立ち上がり、鏡で顔をチェックした。
―――ん、大丈夫だな。
「はよー!」
再びソファに移動しようとした時、相葉ちゃんが楽屋に入ってきた。
「うぃーす」
続いて潤くん。
「おはよぅ…」
最後に眠そうなリーダー。
―――あんた…こちとら朝まで働いてたのにそりゃないでしよ。
俺はその表情に苦笑しながら、鞄からゲームを取り出し、画面のスイッチを入れた。
「では、打ち合わせお願いしまーす」
スタッフが呼びに来て別室へ移動する。俺はリーダーの後ろについて行った。
「ふぁ……」
横で大きな欠伸を見せるリーダー。
「あのさ…今から打ち合わせなんだから、もうちょいシャキっとしろや」
「ふふ…朝は眠くてさー。ニノは元気だね」
リーダーは欠伸で涙目になった目を擦り、へらっとした笑顔を見せる。
「元気じゃないよ。俺今日朝まで撮影してたんだよ?」
俺はわざと得意げに言った。
「まじ、大変だね。あー、あれか…ガツン」
「ガンツだっつーの」
べしっと、まだセットされていないリーダーの後頭部に突っ込みを入れる。
まだこの時の俺はこのくらい、余裕があったんだ。
「星人が走りながらこっちに向かって来るから、それをギリギリまで待ってから飛び上がってね。後はワイヤーで釣るから」
時折相槌を打ちながら、俺は監督の話を聞いていた。
今夜も絶賛撮影中だ。慣れてきたとは言え、やっぱ午前2、3時辺りがキツイ。
更に悪条件なことに寒い。夜の撮影でよく着てるガンツスーツは薄手で、防寒には全く役に立たない。
「……くしっ…」
冷たい風に思わずくしゃみが出る。ずずっと鼻をすすり、俺はスタンバイした。
「今日は雑誌の取材が10本入ります。その後番宣の収録です」
車を運転しながらマネージャーがミラー越しに俺に伝えた。
「…はーい…」
俺は曖昧な返事をしていつものように目を閉じた。
ぼんやりとした意識の中で、まだ先程の撮影の風景が頭を過ぎる。
真っ暗な空の下、星人がこちらを見ている。
…と同時に、口から閃光が放たれる。その先には人間の親子。
一瞬の沈黙の後、血飛沫が飛び散り、俺の顔や体に肉片が嫌な音を立ててぶつかってくる。
そっと近づいてひざまずいて、顔を見ると、それは先程の星人だった。
……!!
はっとして目を覚ますと窓から移り変わる景色が見える。
「どうしました?」
マネージャーが怪訝な顔で聞いてきた。
―――夢か…
「あ、ううん。何でもない。着いたら起こして」
そう言いながら、緩く微笑んだ。心臓がまだドキドキいっている。
もう眠れそうにはなかったが、俺は再び目を閉じた。
「戦いのシーンだけでなく、人間ドラマもあるので、その辺りも注目して見て頂けるといいと思います」
俺はニッコリ、カメラに向かって笑顔を見せた。
「はい、オッケーです。ありがとうございました!」
一回休憩ということで、俺は楽屋に戻った。これで6本こなしたから、あと4本か…
繰り返される似たような質問も、いつもなら平気な取材も、この睡眠不足の頭には正直こたえる。
―――俺、働き過ぎじゃね?
自分の過密スケジュールに思わず苦笑が漏れた。
嵐のメンバーとの仕事なら、役割分担が出来ていて適度に抜いたり出来るが、さすがに一人の仕事だとそれが出来ない。
常に主導は自分だ。
そんなことをつらつらと考えながらいつの間にか俺は浅い眠りについていた。
再びフラッシュバックするあの夜空の風景。
星人が目の前に現れて俺は驚いて飛びのく。スーツからガンを取り出し、狙いを定める。
…と、その時には既に目の前に星人はいなくなっていた。
………あ、れ…?
俺はガンを下ろして辺りを見回す。静かな夜の景色がそこに広がっていた。
俺は慎重に歩を進める。
と、その時背後に気配を感じた。
…!
やられる!と思ったその時、ビクっとして体を起こすと…楽屋だった。
「また夢か…」
―――俺どうかしてんな。
目と目の間を軽くマッサージしながら俺は息を吐いた。
何とか午前の取材をこなし、再び楽屋に戻ってきた。
「あー…さすがに疲れたわぁ…」
俺はつい独り言を漏らし、テーブルの上に用意されていたお弁当に手を伸ばした。
パキンという音を立て、割り箸を割るとお弁当の蓋を開ける。
「……うぐっ…」
蓋を開けた途端、鼻にきた臭いに胃の中から何かが込み上げてくるのを感じ、俺は堪らなくなって側に設置されていた洗面台にダッシュした。
「ゲホ…ゲホゲホッ…ぁ、はぁ…はぁ……」
楽屋に響く俺の荒い息遣いと、流れる水の音。
―――なんだ、今の?
ただ弁当の蓋開けただけじゃないか。
俺はうがいをし、水で顔を洗うと、ソファに戻った。
恐る恐る閉じられていた蓋を開けると、今度は大丈夫だった。
俺はほっと息をつき、手をつけ始めた。しかし、先程の胃液が喉まで上がって来る感覚が拭いきれなく、結局ほとんど食べることが出来なかった。
翌日。
今朝はいつも通り、撮影を朝の6時までやり、その後は嵐のレギュラーの収録だった。
―――今日はVSかぁ…
レギュラーの中で最も体力の使う番組だ。
とりあえず、あんまハードなやつは外してもらおう。
収録までまだ時間があったので、俺はシャワーを浴びて仮眠を取ることにした。
ソファに寝そべり、俺は毛布を被った。
………あ、この感覚…
フラッシュバックする景色に嫌な予感を覚えたが、既にどうすることも出来ずに俺は闇の世界に引きずり込まれていった。
はっとして振り返ると、星人は俺に向かって閃光を発しようとしていた。
……くっ…!
慌てて伏せると星人が放った閃光が側にあった建物を崩壊した。
俺は伏せた姿勢のままガンを構えて引き金を引いた。
俺のガンは見事命中し、どす黒い液体とともに左肩の辺りが飛び散った。
その時、俺の背後に何人かのガンツスーツを来た人間が現れ、寄ってたかって星人にトドメを刺そうとした。
……あぶなっ…
俺が言おうといたその瞬間、星人から再び閃光が放たれ、後ろの人間が嫌な音を立てて飛び散り、その場に崩れ落ちた。
辺りは鮮血にまみれ、星人は黒い液体を垂れ流しながらこちらに来る。
俺は一歩後ずさりした。と、その時足に何かが当たった。
……?
下を見ると、それは先程の人間の首だった―――
後編へ続く。→■
☆☆☆
前編です。
あんまりページがだらだら長いのも…と思って分けただけですので、すぐに後編アップします。
にしても、本当に夜の撮影って大変ですよね…
夜6時から朝の6時までやってたって言ってましたもんね。
それに加えて通常の仕事もあって(><)
今はちょっとゆっくり出来てるみたいですが、本当大変そうでした;;
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