アイデンティティ2


〜〜♪

どこかで携帯の着信音が聞こえる……
俺は夢の中でぼんやり手を伸ばした…

「……っ!」
俺は反射的に体を起こした。
鳴り続けている俺の携帯。マネージャーからだ。
「もしもしマネージャー?」
寝ぼけた声で俺は電話に出る。
「相葉さん?今僕下にいるんですが…もしかして今起きました?」
「げ…まじで!?」
俺は時計を見た。家を出る時間をとっくに過ぎていた。
「うわーっ、ごめんごめん!すぐ行くから!」
俺は着替えと顔を洗って急いで家を出た。


「ハァッ、ハアッ…おはよー…」
息を切らしながら俺は楽屋に入る。
メンバー全員が揃って俺を見た。
「あ、おはよー」
「寝坊しちゃった?」
苦笑しながらそう言って近づいてきたのは翔ちゃんだ。
「ごめん、起きられなくて…ハァ、ハァ…」
車から楽屋まで全力疾走したせいで、俺の息はまだ切れていた。
「スケジュールキツそうだね。大丈夫?」
松潤がペットボトルに入った水を持ってきてくれた。
「ううん、大丈夫。遅れて本当ごめん」
でも皆は責める所か、俺を気遣ってくれた。
なんて優しいんだろうと、最近撮影で若干悩んでいた俺は癒された。
「もう少ししたら始めるって。ストレッチやっといた方がいいよ」
そう言って松潤はイヤホンを付けながらストレッチに戻っていった。
「ん、分かった」
俺は鞄を下ろし、着替えを済ませた。

今日は新曲Lotusの振り入れの日。
ほとんど一日掛かりだが、俺は撮影があるため途中抜けする予定だ。
―――それまでにしっかり覚えないと…
俺はまだ寝ぼけている頭を無理矢理覚醒させ、身体を動かし始めた。

「ワン、ツー、スリー…この時の顔は正面です」
カウントに合わせて一緒に動いていく。
しかし…俺の身体は鉛のように重く、頭も全然働かない。
振りを覚えても右から左へどんどん抜けていってしまう。
「もう一度行きますよ。ファイブ、シックス、セブン、エイト…」
―――だめだ、全然出来ない…
「じゃ、一端休憩します」
そう言って先生は部屋を出ていった。
「うわー、俺全然出来なかった…ニノちょっと手伝って」
翔ちゃんがニノを捕まえて、今までの部分の復習を始めた。
横で何となくリーダーも加わっている。

いつもなら俺も復習しているところだけど…
体がキツくて今は無理だった。
俺は部屋の端に座り込んだまま動けなかった。

「相葉くんしんどい?」
不意に目の前に人陰が現れたと思ったら、松潤だった。
飲み物を渡してくれて、隣に座った。
俺はありがと、と言って喉を潤す。
冷たい液体が胃に入る感覚が気持ちいい。
「今日なんか不調じゃない?もしかして体調悪い?」
眉を潜めてこっちを見る。
その真っ直ぐな瞳の奥にある優しさを俺は感じていた。
「ごめんね、気使わせて。大丈夫だよ」
俺はあぐらをかいた。
「それにしても今回のダンス難しいね!プロモまで覚えられるかな」
俺はいつものようにおどけてへへっと笑った。
松潤はまだ心配そうに俺の顔を見ていたが、ちょうどその時先生が入って来て、練習再開となった。

振り入れは完了したが、結局全部覚えきれないまま、俺はドラマの撮影に向かった。
―――ビデオ見て復習しないとなぁ…
しかしそんな時間どこにあるんだよ、と苦笑が漏れる。
とにかく今はドラマに集中しないと…
移動車の中で、俺は台本を鞄から出した。


「では本番行きます!」
スタッフの合図で撮影スタート。
「このカクテルの意味は…」
そこで俺の頭は真っ白になった。
―――しまった!
と思った時には既に遅かった。
カットの声とともに、スタッフが台本を見せてくれる。
「すみません。もう一回お願いします」
俺はキャストとスタッフに頭を下げた。
なんということだ。台詞が飛んでしまったのだ。
こんな初歩的なミスするなんて…
俺は悔しさで拳をぎゅっと握り締めていた。

「はぁぁ…自己嫌悪…」
ただいま休憩中。
俺は楽屋のソファに突っ伏して呟いた。
―――こういう時にメンバーがいてくれたらなぁ…
ソロの仕事では楽屋も当然一人だ。
もやもやした気持ちが残っているが、気分転換の相手もいない。
俺は思わず携帯を取り出した。
―――やっぱやめた。心配かけるだけだし。
一言でもメンバー誰かの声を聞きたいと思ったが、俺は首を振って携帯を置いた。

しばしの休憩を挟んで再び撮影開始。
―――何か身体が重い…
時計を見ると深夜2時。
疲れてきてんのかなぁ…
でもそんなのは皆同じだし。
俺だけ弱音吐いてられない。

しかし…身体は正直なもので。
集中力が切れかけてる頭は全然役立たずで、その後俺はNGを連発してしまっていた。
「すみません…」
俺は神妙に謝った。
「もうこんな時間だし仕方ないよ。明日に回そっか。巻いてるしね」
下を向いている俺の肩をぽんぽんと優しく叩くと、監督は笑って言ってくれた。
「相葉くんのお陰で帰れるよー」
キャストの方も冗談混じりに笑いかけてくれる。
その優しさは本当に有り難かったが、自分への歯痒さが辛かった。


そんな体力的にも気力的にもギリギリな日々が続いた。
集中力を切らさないように俺はこの数日、撮影に没頭した。
家には数時間寝に帰るだけ。
さすがの俺も疲労を隠せなくなっていた。
「ハードな撮影お疲れ様。明日は撮影休みだからゆっくり休みなね」
じゃ、と監督はセットから出て行った。
「お疲れ様でした…」
俺は監督の後ろ姿に頭を下げた。


翌日。
ドラマの撮影は休みだが、俺には嵐としての仕事がある。
この日は午前中からLotusのフォーメーション入れ。

「あー…眠ぃ…」
俺は欠伸をしながら楽屋に入る。
昨日は深夜まで撮影、その後家で振りの復習をしてたため、全然寝てない。
「おはよー」
俺の姿を見て声をかけてきた。
楽屋には翔ちゃんと潤くんがいた。
翔ちゃんは空いたスペースで身体を動かしている。
俺は荷物を置いてコーヒーを取りに行った。
―――とりあえず目覚まさないとキツいわ…
目頭を強く指で押してマッサージする。

「相葉くん大丈夫?」
いきなり声をかけられ、振り返ると松潤が立っていた。
「びっくりしたー…」
寝てないせいか、喋るとしんどい。
「いや、この前辛そうだったからちょっと心配になって…」
頬をかきながらチラリとこっちを見た。
「あ、大丈夫大丈夫。心配しないで」
俺は松潤の肩にぽんと手を置いて、煎れたてのコーヒーを持つと、そのまま横を通り過ぎた。
松潤には申し訳ないが、喋る気力も、笑顔を見せる気力もなかった。

「はよーっす」
そんなやり取りをしていると、リーダーとニノも到着した。
―――余計なこと考えないで、今は踊りに集中しよ…
俺は自分を奮い立たせた。



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パート3へ続く。→

☆☆☆
続編です。
相葉くんが段々追い詰められていきます(涙)
ドラマやりながらレギュラーやって、ソロの仕事やって、さらに新曲のダンスも…
すごい大変だったんじゃないかなぁと思うんですよね。
時期的にも年末の追い込み時期でしたし。
それでも画面ではいつも思いっきりの笑顔を見せてくれる相葉くんを尊敬します!
まさに嵐の太陽ですよね♪
パート3まで続きますので、どうかお付き合いください!

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